隠された彼の素顔

 彼女は俺を見つめる。

「だって、ずっと見ていたから」

 真っ直ぐに向けられる瞳は、潤んで揺れる。

「私は、猫背の優しい彼にずっと癒されていて。ある日、その彼は私に言い寄る男性を追い払ってくれました」

 身に覚えのあるエピソードに、ただただ驚いて言葉を失う。

「そのときの雰囲気が戦隊ショーに出演していたレッドに似てる気がして、控え室で会えたときは浮き足立っていました。夢見心地だったんです。それが……」

 言葉を詰まらせ、顔を俯かせる彼女につらくなる。

「ごめん。失礼な態度を取った」

 謝罪すると、彼女は顔を勢いよく上げて抗議した。

「謝らないでください。そのときは、ふたりが同一人物だと思ったのは、勘違いだったんだって考えたんです。でもあなたの素顔の写真が出て」

 シンと静けさが辺りを覆う。それから、彼女は静かに言葉を重ねた。

「見てたから。帽子も眼鏡もなくても、あの写真がフラワーショップに来ていた彼だって、わかりました」

 俺はなにも言えずに、彼女の話を聞き続ける。

「レッドが猫背の彼と同一人物じゃないかって、夢見心地であなたが演じていた戦隊ショーもずっと見ていたから。だからテレビの映像を見ても、わかったんです」

 彼女は言葉を詰まらせ、声を震わせる。

「どうしてもあなたのなにか、ほんの少しのかけらでも知りたくて」

 彼女は消えそうな声で言う。

「演技でもいいです。キス、してくれませんか?」

 胸が締め付けられ、俺は片手で顔を覆った。脱ぎかけのマスクが手の中で、もたつく。

 立ち上がり、彼女の側に歩み寄った。
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