隠された彼の素顔

 彼の手が涙を拭い、再び唇を重ねる。その姿があまりに色っぽくて、顔が熱い。

「本当に彼、ですよね?」

 私が癒されていた猫背の彼の面影はどこにもない。

「ん? ああ」

 彼は自分の姿を確認し、背中のファスナーを下ろしていく。

「わっ、待って、待ってください」

 目の前でボディースーツを脱ぎ始める彼を、慌てて制止する。

「まだレッドが残っているのかも」

「そんなわけ! だって、全部博己さんですよね?」

 名前を口にすると、彼は目を丸くした。

「名前、嫌いだ」

「ご、ごめんない」

「いや」

 言葉を切り、彼は片手で顔を覆ってしまった。

「夢中で、顔を晒しているのを忘れてた」

 かろうじて聞こえたか細い声に目を見開いて、「ふふ」と笑う。
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