隠された彼の素顔
「彼女、また見に来てる」
戦隊ショーは休みの度に近くの住宅展示場や、ショッピングモールなどで開催される。
あの日から、彼女は度々ショーを観に来るようになった。数人が面白おかしく話題にする。
「ああいう人って、中身、知ってて来てるんですかね」
「画面の中のまんまと思ってる人もいるからな」
「子どもじゃないんだから」
テレビでやる戦隊番組で変身前の俳優がカッコいいと、子どもに付き添っているはずの母親の方から黄色い声援が来るときも度々ある。
俳優と中の人は別人とわかっていても、夢を見にきているのだと理解している。
でも、彼女は……。
私服姿の俺でも、唯一話せるグリーンの役の緑川さんにぽつりと告白する。
「実は俺、知り合いで」
「そうなのか。だから見に来てるのか」
なにかを感じ取ったように頷く緑川さんに、首を振る。
「いえ、俺とレッドが同一人物とは気付いてないと思います」
自分で言って虚しくなる。現実の俺は、彼女の記憶に残らない程度の存在で。
緑川さんは、肩をたたいて励ますように言う。
「お前のファンになったのかもよ」
「俺じゃなくて"戦隊戦士のレッド"にですよ」
自信にあふれていて、物怖じせずに話しかけられるレッドに。
「気になってるんだろ? 控え室に呼んで話してみたら」
「でも……」
「彼女に素顔、見せてみろよ」
レッドの姿なら彼女と自然に話せる。その誘惑には敵わなかった。