隠された彼の素顔
ドアが開き「レッドさん。ファンの方が挨拶にみえています」と声をかけられ「はい。どうぞ」とレッドらしく堂々と応えた。
彼女は中に入り、俺を確認すると「わあ」と声を上擦らせた。
顔を綻ばせる彼女がまぶしい。
「あの日、親切にしていただいて、どうしてもお礼が言いたくて。何度かお会いできないか、スタッフの方にお願いしたんです。図々しくてごめんなさい」
それは知らなかった。もしかしたら緑川さんは知っていて、この場をセッティングしたのかもしれない。
それにしても律儀な人だ。でも、それが彼女なのだと思う。
「俺はなにも」
「いえ、雨の中で泣いている女性に声をかけるのって勇気がいると思うんです。感動しましたし、救われました」
「当然のことをしたまでだ」
彼女は大袈裟に頭を振る。
「いいえ。あのとき、すんなり話せました。聞き上手ですよね。レッドさんって」
「人助けが使命だからね。あれから呼ばれないけど、助けは必要なかった? いつでも呼んでくれ」
ヒーローぶって話してみせると、彼女は「ふふ」と笑う。
「じゃ話だけ、聞いてもらってもいいですか?」
「俺でよければ」