身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む
私は咄嗟に閃き、水瀬先生に「お話があります」と告げ、何も知らず歩いている遼くんを「笹原くん!」と呼び止め手招きする。
私に声をかけられた遼くんは足を止め、私と水瀬先生を見ると〝俺?〟と自分を指さした。
そそくさと小走りでやって来た遼くんを目にした水瀬先生は、不思議そうな顔をして私に視線を寄越した。
「私、少し前から彼とお付き合いしているんです」
何も知らない遼くんは、ぎょっとした顔で私を見下ろす。
精一杯目に力を込めて〝お願い!今だけ話を合わせて!〟と訴えた。
「なので、今までありがとうございました」
深々と頭を下げ、最後のお礼を口にする。
水瀬先生の顔は見れないまま、遼くんを押して逃げるように通用口から病院内に入っていった。
「おい。どういうわけか、ちゃんと話してもらおうか」
無言のまま一緒に立ち去ってくれた遼くんは、病棟に向かいながらどこか不機嫌そうな声でそう言った。