身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む
「決めつけてるわけじゃない。その女性に、お手洗いでバッタリ会ったの……そのとき、婚約が決まったって、はっきり言われたから間違いない」
そんな話を聞いた遼くんは押し黙る。
相手から聞いたという話をされたら、もうそれ以上何も言えなくなったのだろう。
「でも……昼の水瀬先生の様子、お前に俺と付き合ってるとか言われてショック受けてるように見えたけどな、俺には」
遼くんの言葉に、なぜだかずきっと胸が痛む。
この痛みは、嘘をついてしまったことに対する、水瀬先生への申し訳ない気持ちというだけ。
淡い期待をして、心が疼いているわけではない。
だって、水瀬先生がショックなんて受けるはずがないから。
「遼くんの、考えすぎなだけだよ。そんなの有り得ない」
私にはっきりと断言された遼くんはまたメロンソーダをすする。
「とにかく、私が退職していなくなっても、申し訳ないけどしばらくは私との嘘をつき通しておいてほしいの。まぁ、そんなこと水瀬先生が追及してくることもないと思うけど。お願いします」
間が持たなくなってグラスを手にドリンクバーコーナーへと向かった。