身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


「菜々恵はいません」


 おばあちゃんは落ち着いた声で私がいないと答える。

 きっと、水瀬先生のことは詳しくは話していないものの、私が言っていた相手の男性だとわかったのだろう。

 口に手を当てたまま、様子を見ることができない店先の状況に聞き耳を立て集中する。


「そうですか。もしお時間いただければ、おばあ様とお話させていただけたらと思うのですが」


 水瀬先生の申し出に、おばあちゃんは数秒の間をおいて「どうぞ」と言う。

 続いて水瀬先生の「失礼します」という声が聞こえ、家の中に通されたのがわかった。

 田舎のこの家に水瀬先生がいることが未だ信じられない。

 一体、こんなところまで訪れてなんの話があるというのだろう。

 水瀬先生とは一切の連絡を絶ち、三か月が経とうとしている。

 ここまで来て話があるなんて、もしかして何らかの形で私が先生の子を妊娠していることが知れてしまったのだろうか。

 でも、向こうでそれを知っているのは遼くんしかいない。遼くんには口酸っぱく口外しないように言ってあるから、人に話すことはきっとないはず。

 だとしたら、診察してもらった病院関係からわかったとか? 水瀬の病院は大きいから、あの産婦人科の先生と繋がりがあったとかで……。

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