身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む
「噂で耳に入った。結婚したんだってな、おめでとう」
話しかけられた笹原は突然のことに驚いたのか、手にしていたスマートフォンを白衣のポケットに押し込む。
「ありがとうございます」
「ひとつ訊くが、佐田菜々恵……彼女とはいつ終わったんだ」
そんなことを訊かれると思っていなかったのだろう。
笹原は一瞬表情を固め、俺の顔を凝視する。
しかし、なぜかフッと笑みを浮かべた。
「そのことですが……もう、時効だと思うんで」
時効……?
「アイツとは付き合ってませんよ、俺。昔から今まで、ずっと地元の先輩後輩の仲ですから」
「え……?」
「あのとき偶然通りがかったら訳わからないまま呼ばれて、嘘に付き合わされたんですよ」
言っていることの意味がよくわからない。
嘘に付き合わされた、とはどういうことだ。
「付き合ってるってことで話を合わせてくれって」
「なんでそんなこと」
「アイツなりの、精一杯の身の引き方だったんだと思います。先生には相応しい婚約者がいるからって」