身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む
身を引く? 相応しい婚約者?
まるで他人の話を聞いているように理解に苦しむ。
なぜ、菜々恵が身を引こうなんて思う必要があるのか。
見合いの席に連れて行かれたことはあっても、婚約者なんて今までいたことはない。
なんで……なんでもっと早く話してくれなかったんだ。彼女に頼まれて嘘をついたと。
そう彼を責めたくなる気持ちをぐっと抑え、言葉を呑み込む。ここで彼を責めるのは筋違いだ。
「しばらくは嘘に付き合ってくれと頼まれたんですよ。アイツなりの事情があってですから、仕方ないです」
「事情?」
引っかかるフレーズに訊き返すと、笹原は一瞬〝まずい〟というような表情を見せる。
「それは、俺の口からは言えないですから、これ以上は勘弁してください」
笹原はどこかバツが悪そうに言い、すぐに「でも」と話を続ける。