身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


「やだ! やだやだやだー!」


 しかし、月は突然大声でやだを連発。何を思ったのか、野原の向こうへ駆けていく。


「あっ、こら、月! 戻っておいで!」


 三歳児だから仕方ないかもしれないけれど、あんな大声で全力拒否されたら水瀬先生が傷つくに決まっている。

 だけど、水瀬先生はそんな月の様子でさえ優しい眼差しで見つめている。


「ママがすきなの?」


 そんな月とは対照的に、詩のほうは水瀬先生に近づいていく。

 走っていった月を見るために立ち上がっていた長身の水瀬先生を、下から真剣な眼差しで見上げた。

 水瀬先生は近づいてきた詩に気づき、すぐにまたしゃがみ込む。目を合わせ頷いた。


「好きだよ。ずっとずっと好きだったんだ。だから会いにきた」

「うたもすきだよ。ママがだいすき」

「じゃあ、一緒」


 水瀬先生は詩に手を差し出す。

 詩は一瞬考えたようだけど、その手に自分の手を置いた。

 水瀬先生の大きな手が、詩の小さな手をそっと握る。

 そこに走って戻ってきた月は、ふたりの様子を目にし、黙って私の足に絡みついた。

 詩は水瀬先生と早く打ち解けられそうだけど、月のほうは少し時間がかかるかもしれない。

 ふたりの様子にそんなことを思っていると、水瀬先生が「菜々恵」と静かに私を呼んだ。

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