身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


 振り返ったと同時、手を引かれ綺麗な顔が迫り、チュッと軽く唇に触れる。

 驚いた私を見て微笑を浮かべた漣さんは、角度を変えてもう一度口づけを落とした。


「……っ、漣さん……?」


 数秒間、唇が触れただけで一気に体の熱が上がる。

 こういうのは、もう三年以上ご無沙汰。

 漣さんに触れられた過去の記憶が、今の口づけを皮切りに少しずつ蘇り始める。

 突然のキスに鼓動を速めていると、「ママー!」と奥からふたりの呼ぶ声が聞こえてくる。


「あっ、今行くねー!」


 慌てた声を出した私を漣さんはクスッと笑った。


 漣さんが用意してくれたホテルの部屋は、都会の街を一望できる贅沢な一室。

 部屋は広くヨーロピアンテイストで、非日常な優雅な空間が広がっていた。

 置いてある調度品は子どもたちにとってはどれも初めて見るようなものばかりで、「すごーい」や「きれい」と物珍しそうに見て歩いていた。

 寝室と角部屋のリビングからの眺望に、子どもたちは磨かれたガラスに貼り付き大興奮。

 東京に出てきてから田舎にはないビル群に驚いていたけれど、それを見下ろす場所に自分たちがいることが不思議に思えたのだろう。

 私だって東京に数年住んでいたけれど、こんなラグジュアリーなホテルに宿泊した経験なんてない。

 漣さんの話によると、子どもと一緒に宿泊するプランで予約してくれていたようで、アメニティも子どもが喜ぶ豪華なものだった。

 くまのぬいぐるみがリュックになっていて、そこに部屋で使う可愛いハンドタオルや歯ブラシなどが入っていたのだ。

 もちろんリュックごと持って帰れるプレゼントで、ふたりは早速背中に背負い大喜びだった

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