身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む
月が眠ったあと、詩もその横で眠りについた。
ふたりがぐっすり眠ったのを見届け、主寝室をひとり出ていく。
時刻は二十一時半を回ろうとしていた。
リビングルームの広いガラス窓の前、漣さんは広がる夜景を眺めていた。
私が近づいてきた気配を察知して振り返る。
「眠ったか」
「はい」
漣さんは「お疲れ様」と言って、私の手を取る。そのままソファに連れて行かれた。
「少し飲まないか」
ソファ前のローテーブル上には、ワインクーラーとグラスがふたつ用意されている。
子どもたちが眠るのを待っていてくれたようだ。
「では、少しだけ」
考えてみれば、漣さんと一緒にお酒を飲むのは初めてのこと。
二度食事に連れていってもらったけれど、どちらもお酒を飲むことはなかった。
漣さんがそれぞれのグラスにワインを傾ける。
グラスの三分の一程度まで濃く赤いワインを注ぐと、ワインクーラーにビンを戻した。
漣さんに倣ってグラスを手に取り、「乾杯」と言い合ってグラスを重ねた。
口元に近づけただけで、芳醇なワインだと感じる。