身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


「沐浴も、ひとりずつ交代でやるのは大変だったよな……」


 自分がいなかったとき、菜々恵はひとりでふたりの世話をしていた。

 こうして当時の写真を見ることで、漠然としていたものがくっきりと見えてくる。


「結構、腰にきましたね。沐浴時期は。でも、一緒に入れる時期になったときは、それはそれで大変で。お座りができるようになるまでは、おばあちゃんに手伝ってもらって」


 思い出しているのか、菜々恵はふふっと笑う。

 今はこうして笑えるのかもしれないが、当時はいっぱいいっぱいだったに違いない。

 初めての育児。それがひとりではなく双子、倍なのだ。

 どんなに苦労をしただろうと思うと、きつく胸が締め付けられる。


「これは、離乳食をはじめた頃です。ふたりとも、おかゆが好きで。でも、月はそこににんじんペースト混ぜると、絶対べーって出しちゃって。あ、これは歩き始めた頃ですね。詩のほうが歩くの早かったんですよ。ほら、月がうしろでハイハイしてる」


 横で一緒にアルバムを覗き込み、菜々恵は俺の知ることのできなかったふたりの話をしてくれる。

 誕生の瞬間を見守りたかった。沐浴も一緒にやりたかったし、初めての食事も食べさせたかった。

 戻らない時を悔やみ、菜々恵にすべてを背負わせてしまったことに懺悔する。

 思い出話を聞きながら、鼻の奥がツンと痛くなった。

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