身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む
「どの写真の時期も、漣さんに、見てほしかったな……。このときは、そんなこと思わなかったんですけどね」
となりから聞こえいる声が、わずかに震えているのに気づく。
アルバムから目を向けた菜々恵は、慌てたように目尻を指先で押さえていた。
感情が動くまま、菜々恵の体を抱きしめる。掛ける言葉が出て来ず、ただ腕に力がこもっていた。
「現実味のないことで、くだらないと思うかもしれないが……時間を戻せることができるなら、どんなにいいだろうと考えていた」
「漣さん……。わかります。それは、私も考えたことあったから」
でも、どんなに願っても時間は刻まれていくのみ。決して戻らない。
「一緒にいられなかったころのこと、私、これからたくさん話します。一緒にいたのかもって、錯覚できるくらい」
後悔と悔しさに、菜々恵の優しさが混じり合って、複雑な感情はいつぶりかもわからない涙を目に浮かばせる。
流すことは許されず、しばらく菜々恵を抱きしめたまま目を乾かしていた。
「ありがとう。これからは、すべて一緒に。思い出として振り返れるようにそばにいる」
「はい。よろしくお願いします」
菜々恵がぎゅっと抱きしめ返してくる。
こんなに華奢な体で、重く大きなものをひとりで背負ってきた菜々恵が愛しくてたまらない。
片付けも忘れてしまったかのように、抱き合ったまま時間が流れていた。