身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


 電話口から聞こえてきたのは、予想もしていなかった詩の声。

 慌てているような様子に、一気に焦燥感に襲われる。


「どうしたんだ? ママは」

『ママが、ママが!』

「詩、ママがどうした?」


 電話の向こうから「ママぁ!」と叫ぶ月の声も聞こえてくる。

 只事ではない雰囲気に、スマホを耳に当てたまま医局を飛び出していく。

 ちょうど出くわした看護師に「外来、少し外させてくれ!」と頼み廊下をかけていく。


「詩、ママはそこにいるのか?」

『ママ、ばたんって、たおれたの!』

「倒れた?」

『それで、まだおきないの』


 これから迎えに帰り、検査をする予定でいたところに起こった緊急事態。

 倒れたと聞き、一瞬で昨夜の出来事がフラッシュバックしてくる。

 仕事から帰宅をすると、目眩がしてリビングで休んでいた菜々恵。

 検査をしてもらいたいと言った表情はどこか不安を隠しきれていなかった。

 でもまさか、意識を失うほどの貧血だったとは。

< 241 / 246 >

この作品をシェア

pagetop