身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


『これで、良くも悪くも少しは俺のことを考えてもらえればいいが』


 今思い返しても顔が熱くなる。

 少しはどころか、お陰で頭の中は水瀬先生のことばかり。

 だって、あのときの不意打ちのキスは、私にとって人生初めてのファーストキスだったから……。

 あんな形でその瞬間を迎えるとは思いもしなかった。

 ましてその相手が、私にとって雲の上の存在である水瀬先生だったなんて、未だに信じられない部分もある。

 でも、あのときのなんとも言えない緊張感、触れ合った唇の感触、そこにあった空気でさえ忘れられない。

 水瀬先生にとってみれば、キスのひとつやふたつ大したことないのかもしれない。

 私にできるくらいのこと、なのだ、きっと。

 だけど私は水瀬先生の思惑通り、彼で頭の中は占領されてしまった。

 決め手は別れ際のキスであることは間違いないけれど、初めてちゃんと話した水瀬先生が思っていた以上に話しやすくて、緊張していたはずの時間は楽しくてあっという間に過ぎ去っていた。

 雲の上の人であることは変わりないけれど、もし、また機会に恵まれたのならば一緒の時間を過ごしたいなんて思いを抱いてしまう。

 おこがましい願いなのはわかっているけれど……。

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