身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


 病院近くのお気に入りのパン屋まで走ろうと、従業員専用の非常階段を駆け降りる。

 それほどお腹も空いてないから、何か総菜パンを一個食べれば午後の仕事は乗り切れそうだ。

 最近あまり食欲がないのは、連日の猛暑による夏バテに違いない。

 二階から最後の階段を降りきり、階段の入り口扉に手を伸ばす。

 その同じタイミングで扉が開き、驚いて足を止めた。


「あっ……お、お疲れ様です!」


 なんと、ドアから階段に入ってきたのは水瀬先生。

 こんなところでばったり鉢合わせることはそうそうない。

 あのパーティーの夜、送り届けてもらい一緒の時間を過ごしてから、電話やメッセージアプリで何度か他愛ないやり取りを交わした。

 でも、直接こうして顔を合わせるのは久しぶり。

 少し前、水瀬先生は関西の病院へ一週間ほど出向いていた。

 なんでも、難しい症例の患者のオペに、協力医として参加したらしい。そんな話をナースステーションで小耳に挟んだ。

 院内の患者だけではなく、系列病院にもたまに出向することがあるからやはり忙しい身だ。

< 69 / 246 >

この作品をシェア

pagetop