身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


「今日あたり連絡しようと思ってたんだ。明日でも明後日も、時間取れないか?」

「あ……はい、明日も明後日も特に予定はないです」


 明後日までちょうど日勤が続き、仕事後に予定は特に入っていない。

 返答を聞いた水瀬先生の顔に微笑が浮かぶ。


「そうか。じゃあ、明日。仕事が終わったら連れていきたいところがある」

「私を、ですか? はい、喜んで!」

「良かった。じゃあ、また連絡する」

「わかりました。楽しみにしてます」


 思いもよらぬ予定が舞い込み、途端に心が弾む。

 ぺこりと頭を下げて立ち去ろうとしたとき、水瀬先生に再び腕を掴まれた。

 え?と思ったときには引き寄せられ、彼の腕の中に閉じ込められてしまう。


「っ、水瀬先生!?」


 誰が来るかもわからない場所で抱きしめられ、心臓がバクバク音を立て始める。


「久しぶりだから、ちょっと充電。明日まで頑張れるように」


 そんな水瀬先生の発言とは思えない可愛いことを言われて、私からも勇気を出して彼の背中に両腕を回してみる。

 数秒間ギュッと抱きしめ合い、誰にも見られず体を離した。


「じゃあ、午後も頑張って」

「はい! 先生も」


 階段を上がっていく広い背中を見送り、高鳴ってしまった鼓動を落ち着けるように胸を抑える。


 明日、楽しみだな。

 非常階段を出て歩き始めると、自然とスキップするように歩みが弾んでいた。

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