身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む
「水瀬先生、婚約したんじゃないかって」
え……?
遼くんが投下した話題に、女性看護師たちが見事に食い付く。
「え、何その面白そうな話。どこ情報?」
「消化器外科の保泉先生です。さっき、たまたま回診のときに聞かされて」
ドクターからの情報だと聞いた面々は、「マジか」と口々に反応する。信憑性の高い情報だということだろう。
人知れず鼓動が嫌な音を立て始める。
「え、相手は誰? ドクター?」
「いや、目黒製薬のご令嬢だって聞きました」
遼くんの話に、看護師たちが「えー!」やら「うっそ!」などと口々に反応する。
「目黒製薬って、最近新型ウイルスの治療薬作ったとこじゃん。うわ、すごい相手と婚約だね。え、政略結婚ってやつかな」
婚約、政略結婚──次々と飛び交うフレーズに頭の中は真っ白になっていく。
「佐々木さんの検査の付き添い、行ってきます」
盛り上がるその場から逃げ出したくて、ひと声かけてナースステーションをひとりあとにした。