身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む
「次期院長はお忙しいようだな」
佐々木さんがさらりと言った言葉に思わず「えっ」と反応する。
「そうなんですか? 次期院長?」
「もちろんそうなるだろう? 病院長のご子息なんだから、水瀬先生はここの後継者だ」
病院長の息子さんだとは小耳に挟んでいたけれど、詳しい事情は知らなかった。
そっか、そうだよね。跡継ぎってことになるんだ……。
次期病院長。それを知ると、ますます雲の上の人だと思えてくる。
「確か、お兄さんか弟さんか、兄弟も何人かいるって聞いたけど、病院をいくつも持っているから、みんな跡継ぎになるんだろうな」
「えっ、そうなんですか? ご兄弟みんなお医者様?」
「みたいだよ。なんだ、菜々恵ちゃんなんにも知らないんだなー。患者の俺の方が知ってるなんて」
「知らないですよ。佐々木さんが情報通すぎるんです」
遠目でそんなことを話しているうち、水瀬先生がMRと共にこちらに向かって歩いてくる。
私たちのそばを通り過ぎていくとき、水瀬先生は佐々木さんに軽く会釈をしていった。