身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む
きょんちゃん……?
松原京香は、小学生の頃からずっと一緒に育ってきた近所の友人。幼なじみという関係になる。
今も地元で暮らしていて、私が東京に出てきてからはうちのおばあちゃんのことも気にかけてよくお店にも顔を出してくれている。
高齢化する故郷で頼れる若者のひとりだ。
そんなきょんちゃんは、高校生の頃からネイリストを目指していて、検定を受けてプロのネイリストになった。
今は車で三十分ほどかかる隣町のショッピングモールのネイルサロンで働いている。
資金を貯めたら、こっちに出てきてお店をオープンさせたいという夢があるのだ。
ちょこちょこ連絡は取っているけど、電話かかってくるのは珍しい。
「もしもし?」
『お、出た! 夜勤なのかと思ったよ』
聞こえてきた馴染みの声に、急にホッと安堵に包まれる。
自分でも驚くほど自然に目に涙が浮かんできて、ポロポロと頬に流れ落ちた。
「きょんちゃん……どうしよう、私……」
『え? え、ちょっと菜々恵? どしたの、泣いてるの?』
電話口で嗚咽を漏らし始めた私に、事情を知らないきょんちゃんは慌てた声を出す。
『大丈夫? 何があったの?』
きょんちゃんのそんな声に、涙でいっぱいの目で手に持ったままの検査薬をじっと見つめた。