身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


「それは、できないよ」

『えぇ? なんで』

「だって、婚約者もいる人なんだよ? それなのに、遊び相手だった私から妊娠したなんて言われたら、迷惑なだけじゃん」


 どう考えたって伝えるなんて選択肢はない。絶対に言えっこない。


『じゃあ、菜々恵が全部ひとりでどうするか考えて決めて、相手の人には一切伝えずに? でも、お金だってひとりでなんとかするにもかかるじゃん。そういう責任も取らせないの?』


 妊娠していれば、産むか産まないか、その選択を迫られる。

 その決断を、パートナー無しの私は自分自身でしなければならない。

 堕胎するにしても手術費用がかかる。

 母親になる決意をすれば、子どもをひとりで育てていくためにそれ相当のお金が必要になるということだ。

だけど……。


「そんなの、言えないよ」


 私の断固として伝えられないという姿勢に、数秒間の沈黙が流れる。

 きょんちゃんは電話の向こうで小さく息をついた。


『……菜々恵がそう言うんだから、本当に言えない状況ってことか。ごめん、簡単に色々問い詰めて』

「ううん。こっちこそ、ごめん」

『まぁ、とにかく話してくれたからには、私はなんでも協力するし、どこでも駆けつけるし。なんでも言って』


 心強い言葉にまた涙腺が緩む。

 泣いた声ばかり聞かせてこれ以上心配をかけるのも嫌で、ぐっと涙を呑みこみ「ありがとう」とはっきりとした声で答えた。

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