モナムール
「……中野さんって、つらい時に笑うの本当下手くそですよね」
「……え?」
不意に聞こえた言葉に、私は息を呑んだ。
「無理してるのがバレバレなんですよ。見てて痛々しいって言うか、心配になるって言うか」
「……」
「仕事も、恋愛も。そんなに無理してまで頑張らなくても、もっと肩の力抜いてもいいんじゃないですか?」
その言葉と真剣な眼差しに、ポロリと涙がこぼれ落ちた。
一つ、二つ、三つ。頬を伝っていくそれが、カウンターに落ちる。
「すみません、泣かせるつもりは……」
「あっ、ごめん。違うの。ただびっくりして……」
「びっくり?」
「マスター、私のことよく見てくれてるんだなって……思って」
今までそんなことを言われたことがないからびっくりしたけれど、嬉しかった。
「……当たり前です」
その言葉に少し笑ってから涙を拭って、チョコレートを一つ口に運ぶ。
口の中に広がる優しい甘さが、とても心地良く身体に染み込んでいく。
「……おいしい」
「……その表情の方が中野さんらしくて素敵ですよ」
「っ、歳上をからかわないで」
「からかってません。……口説いてるんです」
「……え?」
「……はい、どうぞ。ジンフィズです」
おそらくサービスなのだろう、頼んでいないカクテルは、通常のジンフィズをアレンジしたのかラズベリーが入っており目で見ても楽しめる。
驚きつつもキラキラと光るグラスを見つめながら、マスターに視線を戻した。