モナムール



「……中野さんって、つらい時に笑うの本当下手くそですよね」


「……え?」



不意に聞こえた言葉に、私は息を呑んだ。



「無理してるのがバレバレなんですよ。見てて痛々しいって言うか、心配になるって言うか」


「……」


「仕事も、恋愛も。そんなに無理してまで頑張らなくても、もっと肩の力抜いてもいいんじゃないですか?」



その言葉と真剣な眼差しに、ポロリと涙がこぼれ落ちた。


一つ、二つ、三つ。頬を伝っていくそれが、カウンターに落ちる。



「すみません、泣かせるつもりは……」


「あっ、ごめん。違うの。ただびっくりして……」


「びっくり?」


「マスター、私のことよく見てくれてるんだなって……思って」



今までそんなことを言われたことがないからびっくりしたけれど、嬉しかった。



「……当たり前です」



その言葉に少し笑ってから涙を拭って、チョコレートを一つ口に運ぶ。


口の中に広がる優しい甘さが、とても心地良く身体に染み込んでいく。



「……おいしい」


「……その表情の方が中野さんらしくて素敵ですよ」


「っ、歳上をからかわないで」


「からかってません。……口説いてるんです」


「……え?」


「……はい、どうぞ。ジンフィズです」



おそらくサービスなのだろう、頼んでいないカクテルは、通常のジンフィズをアレンジしたのかラズベリーが入っており目で見ても楽しめる。


驚きつつもキラキラと光るグラスを見つめながら、マスターに視線を戻した。


< 10 / 36 >

この作品をシェア

pagetop