モナムール



「中野さんは中野さんらしく。無理しなくたって、あなたの魅力を知っている人は必ずいますから」



キュ、と。胸が締め付けられるような感覚がして。


鼓動が早まる。


一旦落ち着きたくてジンフィズを飲むと、爽やかな甘さが口いっぱいに広がった。



「ま、俺もその一人ですが」


「……からかってんなら、ほんとタチ悪いよ……」


「だからからかってませんって。今まで我慢してたけど、中野さんが例の人を諦めたんなら、あとは俺が攻めるだけですからね」



いつもマスターの一人称は"私"なのに。急に聞こえた"俺"という低い声に、上手く息ができない。



「自分で言うのもなんですけど、優しさあると思うし、好きな人には思いっきり甘えてほしいし頼られたいタイプだし、それに見合った包容力もある方だと思いますよ。歳下も大丈夫なんでしょう?」



今までと違う、悪い顔。


口説く?攻める?我慢してた?


頭の中をぐるぐる回る言葉たちに、思考が追いつかない。



「ま、マスターが好きな人って……もしかして」



先日言っていた、その相手って。



「……中野さん。中野さん曰く、俺を選ばないなんてもったいないらしいですよ?」



ウイスキーに酔ってしまったのか、口説き文句に酔いしれたのか。



「悪いけど、弱ってるところ、つけ込ませてもらいますね?」



私は真っ赤に顔を染めたまま、しばらくそこから動くことができなかった。


< 11 / 36 >

この作品をシェア

pagetop