モナムール
「中野さんは中野さんらしく。無理しなくたって、あなたの魅力を知っている人は必ずいますから」
キュ、と。胸が締め付けられるような感覚がして。
鼓動が早まる。
一旦落ち着きたくてジンフィズを飲むと、爽やかな甘さが口いっぱいに広がった。
「ま、俺もその一人ですが」
「……からかってんなら、ほんとタチ悪いよ……」
「だからからかってませんって。今まで我慢してたけど、中野さんが例の人を諦めたんなら、あとは俺が攻めるだけですからね」
いつもマスターの一人称は"私"なのに。急に聞こえた"俺"という低い声に、上手く息ができない。
「自分で言うのもなんですけど、優しさあると思うし、好きな人には思いっきり甘えてほしいし頼られたいタイプだし、それに見合った包容力もある方だと思いますよ。歳下も大丈夫なんでしょう?」
今までと違う、悪い顔。
口説く?攻める?我慢してた?
頭の中をぐるぐる回る言葉たちに、思考が追いつかない。
「ま、マスターが好きな人って……もしかして」
先日言っていた、その相手って。
「……中野さん。中野さん曰く、俺を選ばないなんてもったいないらしいですよ?」
ウイスキーに酔ってしまったのか、口説き文句に酔いしれたのか。
「悪いけど、弱ってるところ、つけ込ませてもらいますね?」
私は真っ赤に顔を染めたまま、しばらくそこから動くことができなかった。