モナムール
「どうでした?イタリアン」
「うん。すっごく美味しかった。連れてきてくれてありがとう」
どの料理もおいしくてお洒落で、思わず笑顔になってしまう時間だった。
財布を出す出さない云々の前に気が付いたら会計が終わっており、驚いている間に嬉しそうな廻くんに連れて行かれるがまま今に至る。
「お会計も、奢ってもらっちゃってごめんね。ありがとう」
「ははっ、中野さんはそういうところ律儀ですね」
「なに、変?」
ご馳走になったんだからお礼を言うのは当たり前だろう。
しかし廻くんは終始嬉しそうで、
「いえ、そういうところも大好きです」
と言いながらまたさりげなく私の手を取ってぎゅっと握った。
「なっ」
初めてはっきりと言われた"好き"の言葉と繋がれた手に、わけもなく全身が沸騰したように熱くなる。
そんな私の反応を楽しんでいるかのように顔を覗き込んでくる廻くん。
恥ずかしさのあまり、視線から逃れるように空いた方の手でその顔を制した。
「……廻くんは、私のどこが好きなの?」
こんな、愚痴ばっかりの客のことを好きになるなんて。私のどこを好いてくれたのだろう。
私に、こんな素敵な人に好かれる要素はあっただろうか。
こんなストレートにアプローチをしてもらえるほど、私に魅力なんてあったのだろうか。
自分では全く思い当たらなくて聞いてみると。
「中野さん、初めてうちの店に来てくれた日のこと、覚えてますか?」
と廻くんは一つ微笑んだ。