モナムール
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それは、今から一年と少し前のこと。
確かその時も、仕事がうまくいっていなくて。
ちょうど鷲尾さんが表情を無くしていた時期だから、あまり相談もできなくて。
仕事帰りに浴びるほどのお酒が飲みたい、とふらっと歩いていたら辿り着いたのがdernierだった。
『いらっしゃいませ』
お店に入った瞬間の、廻くんの穏やかな甘い声と落ち着いた空間に、一瞬で心が癒されたのを覚えている。
「あの日に、何かあったっけ?」
「あの時の中野さん、ものすごい疲れた顔してて。誰が見ても悩んでいそうだったから、ちょっと気になったんです」
「あぁ……仕事うまくいってなかったから」
自分でもあの時の私は相当ひどい顔をしていただろうと思う。
思い出して一つ苦笑した。
「俺は初めてのお客様には外見から好きそうなものを勝手にイメージしてたりするんですけどね。中野さんは俺の予想の斜め上をいってたから、それもびっくりして」
「……どんなイメージだったの?」
「華奢でとても華やかなメイクをしている同年代の美人さんだったので、甘さ控えめな柑橘系のカクテルとかが似合いそうだなって勝手に思ってたんです」
「そう、かな」
「はい。でも実際にはバーボンを使ったカクテルください、ですよ?びっくりしちゃって」
ケラケラと笑う廻くんに、あの時の私はそんなイメージを持たれていたなんて想像だにしていなかった。