モナムール
「私、両親が酒豪だから初めて飲んだお酒が実家にあった日本酒だったの。いつも日本酒とかウイスキーとか焼酎とか、そんなのばっかり父親に勧められるから必然的に味覚がおじさんになってたんだよね」
もちろん甘いものも好きだし、友達と飲みに行く時は空気を読んでカクテルも頼んだりする。
けど、舌はやはり最初に飲んだものを覚えてしまっているらしい。
「ははっ、そうだったんですね。そんな風には見えなかったからあの時ばかりはそのギャップに驚いて。表情も疲れ切ってたから、すぐに酔い潰れるんじゃないかって心配だったんです」
「そうだったんだ……」
自分のことで頭がいっぱいで、そんなこと全然気付いていなかった。
「でもそんな心配いらないくらい、めちゃくちゃ飲むじゃないですか。この人ザルなんだなって思って。そのあと何杯目かでマンハッタンを出した時に、この人は酔って忘れたいことがあってもそれができないんだろうな……って思ったらなんかもっと気になっちゃって。ボトルの案内なんて一見さんには絶対しないんですけど、つい勧めちゃったんですよ」
そうだ。dernierに行ったのはあの日が初めてだったのに飲み続けているうちにバーボンのボトルを勧められて。キープしておくからって。
通うかもわからないのに、柔らかな笑顔で言われて思わず頷いてしまったのを覚えている。
あの日最後に飲んだカクテルがマンハッタンだった。ほろ苦いのに甘い味が、あの時の私の気持ちを表しているように感じたのを覚えている。