モナムール
「廻くんの雰囲気なのかな。あの時のdernierがすごく居心地が良くて。美味しいお酒とあの空気にすごく癒されたんだよね。マンハッタン、おいしかったなあ……。あの時の味に惚れて、ボトル関係無しにまた行きたいなって思って、気付いたら通ってた」
きっと他の常連さんも同じ理由で通ってるんじゃないだろうか。癒しを求めている時や疲れている時、おいしいお酒を飲みたい気分の時。気が付いたら足が勝手にdernierに向かっているのだ。
「……それは嬉しいです。とても、嬉しいです。冥利に尽きます。ありがとうございます」
「お礼を言うのは私の方だよ。いつも素敵な時間をありがとう」
立ち止まった廻くんに同じように足を止めてお礼を告げると、嬉しそうに恥ずかしそうに笑う。
「"dernier"っていう名前、フランス語で"最後の"っていう意味なんです。お客様が一日の最後に訪れるお店になりたくて付けたんです。
だからあの時、中野さんが帰り際に"これだけでいい一日になった"って。"楽しい時間をありがとう"って。そんなこと言ってくれるなんて思ってなくて。純粋に嬉しかった。
でもそれ以上にその時の中野さんの笑顔が素敵で、忘れられなかったんです。……あれです。多分一目惚れだったんです」
まさかその時から私を想ってくれていただなんて。
私、そんなこととは知らずに鷲尾さんの愚痴をずっと聞いてもらってた。