モナムール
「……私の愚痴聞くの、つらかった?」
「愚痴?あぁ、例の彼ですか?……まぁ、つらくないって言えば嘘になりますけど。でもいつか絶対中野さんを俺のものにするって決めてたから。泣きそうな顔も帰りには笑顔になってる方が嬉しかったですよ」
「っ……」
「ははっ、顔赤くなった」
「ちょ、見ないでって」
「ダメです。可愛い顔もっとよく見せてください」
「だ、ダメだって」
廻くんの視線から逃れるために止まっていた足を動かす。
顔の赤みが引くまでパタパタと手で仰ぐ。
「隠さなくったって可愛いのに。……もう遅いですし、そろそろ帰りましょうか。送ります」
嬉しそうな声色に数回頷いて、律儀に自宅前まで送ってくれた廻くんに丁重にお礼を告げながら帰った。
"今日は楽しかったです。ありがとうございました。次は一緒にお酒飲みましょう"
とても健全なデートを終えた後、寝る前に送られてきたメッセージを見て、また胸が甘く鳴く。
それはつまり、廻くんがお酒を作ってくれるということだろか。
私もお礼の返事をしようと文字を打とうとした時に続けて送られてきた文字を見て、思わず布団に潜り込む。
"その時は、キスしてもいいですか?"
直接聞かれるよりも、こういうセリフは文字で残る方が恥ずかしい。誰が見ているわけでもないのに隠れるように布団の中で考えに考えてから返事を送る。
"まだ、だめ"
お礼を送るはずだったのに、廻くんのせいでそれどころじゃなくなってしまった。
私の返事を見て笑っている廻くんが容易に想像できてしまう。
……でも、キスしたいと言われても。それが嫌だとは思わない私がいる。
まだ、だめ。
じゃあ、いつかはいいってこと?
自問自答を繰り返しながら、バクバクと高鳴る心臓に落ち着かない夜を過ごした。