モナムール
あなたに心を奪われた
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「いらっしゃいませ」
「……こんばんは」
「こんばんは中野さん。お久しぶりですね」
マスター、もとい廻くんとデートをしてから、二週間が経過した。
あれから仕事は少しずつ調子を取り戻し始め、業績もなんとか上がってきている。
肩の力を抜く。廻くんに言われたことを実践すると、なんだか気が楽になったのだ。
しかしどんな顔をしてまたdernierに行けばいいのかがわからず、悶々としているうちにこの二週間は一度も顔を出せずにいた。
「お仕事はどうですか?」
「うん。なんとか。肩の力抜けって言われて開き直れたみたい。ありがとう」
「私は何もしてませんよ。中野さんの実力です」
ふわりとした笑顔は、久しぶりに直視したからか破壊力は抜群で。
お店に入る前からドキドキしていた胸がさらにうるさく騒ぎ出す。
「でも、良かったの?こんな閉店間際に来て」
「はい。閉店間際だから呼んだんですよ」
「どうして?」
二日前、廻くんからきた連絡。
"明後日、ちょっと遅くになっちゃうんですけど、お店来てもらえますか?"
少し砕けた文面に首を傾げた私。
特に用事も無かったし、明日は土曜日で仕事は休みだ。何かしらのきっかけが欲しかったところだったのは事実だったため、その誘いにありがたく乗っかった次第だ。