モナムール
一気に近くなった距離にそわそわしながらもスクリュードライバーを一口飲むと、オレンジの爽やかな香りと甘味が鼻に抜けた。
「……おいしい」
「良かった」
「廻くんの作ってくれるお酒は本当にどれも美味しくて癒されるよ」
今度からはウイスキー以外も色々注文してみよう。
静かに響くBGMを聴きながら、特に何かを話すわけでもなくただお互い正面を向いてカクテルを楽しむ。
不意に、カウンターの上にあった左手に、廻くんの右手が重なった。
「っ」
「あれ、逃げないんだ?」
いたずらをする子どものような悪い顔は、そう言う癖に逃がすつもりなどないのは明白。
だってほら。いつの間にか指先が絡め取られて、そのまま繋がれている。
温かくて、優しくて。親指が私の手の甲を摩るように撫でた。
「……中野さん」
「……なに?」
「この間言ったこと、覚えてます?」
「……うん」
キスのことなら、まだダメって言ったけど。
「……梓さん」
「っ……はい」
「キスしても、いいですか?」
そんな熱っぽい視線で、そんな甘い声で。
こんなタイミングで名前で呼ぶなんて、ずるい。ずるいよ。
「……っ」
「まぁ、ダメって言ってもするんですけどね」
小さく笑って、私が固まっている間に手を解いて私の顔に下がる髪の毛を耳にかけて。そのままそっと頭の後ろから引き寄せて。
「……んん」
流れるような手つきで優しく触れた唇は、何度も角度を変えながら味わうように重なり合う。
廻くんの飲んでいたラスティネイルの甘みが、さらに気持ちを昂らせた。
次第にどんどん甘く激しくなるキスに、身を任せることしかできない。
身体が離れた頃には息が上がってしまい、頭がぼーっとしていた。