モナムール
「どうぞ。バーボンのロックです」
すぐに運ばれてきたいつものロックグラスとチョコレート。
「ありがとう」
お礼を告げるといつもと同じ笑顔で会釈してからカウンターに戻っていった。
その光景を見ていたカウンター席の誰かが、
「えぇー、注文してないのに何頼むかわかるんですか?」
と前のめりに廻くんに尋ねて。
「常連さんってやつ?"いつもの"ってやつ〜?いいなぁ、私もこのジントニック、"いつもの"にしてくださあい」
その絡み方を見るだけで、だいぶ酔っているのがわかる。
「ねぇマスター、そろそろ名前教えてよー」
「マスター、私ともおしゃべりしよ?」
至る所から声を掛けられる廻くん。その声に律儀に答える廻くんを見て、なんだか胸の辺りがモヤモヤした。
……私、もしかして嫉妬してる?
いやいや、まさか。
ロックグラスを慌てて手に持ち、チョコレートを摘みながら飲み進める。
ペースが早かったからか、頭が一瞬くらりとした。
そういえば、これは今日何杯目のアルコールだろうか。自分でも良くわかっていないけれど、多分相当な量飲んだ気がする。
廻くん曰くザルな私だけれど、今日はちょっと飲み過ぎてしまったかもしれない。
思わずこめかみを抑えながら、グラスをテーブルに置く。
特にすることも無いためスマートフォンをいじるものの、カウンター側から聞こえる女性たちのきゃっきゃとした声が気になってしまって全然集中できない。
ちらりとそちらに目をやれば、当たり前だが廻くんも笑顔でそれに応じている。
……若くて可愛い子ばっかりだなあ。
またモヤモヤしていると、不意に廻くんと視線が絡み合う。
でもこのモヤモヤを悟られたくなくて、あからさまに視線を逸らした。