モナムール



初めて会った時に一目惚れしてしまった俺は、それまではまさか自分がお客様に手を出すなんて考えたこともなかった。あくまでもお客様はお客様で、女性として見たことがなかったのだろう。だから今までどんな女性客から口説かれても何も靡かなかったし、心に響くこともなかった。


まして寝てしまったお客様を閉店時間を過ぎても起こさないなんて、あり得ないことだ。
それなのにどうだろう。


今では中野さんから聞こえてくるかすかな寝息一つに愛おしさが溢れて仕方ない。


疲れてるなら可能な限り寝かせてあげたいし、なんならこのまま俺ん家にお持ち帰りしたいくらいだ。


中野さんに選んでもらったラスティネイル。


そのカクテルに込められた意味を、彼女は知ってて選んだのだろうか。


それはわからないけれど、俺のために選んでくれたことがまずたまらなく嬉しかった。


レジを閉めてグラスを片付けて、ようやく閉め作業が終わって中野さんの元へ向かう。


華奢な肩に触れると、その温かさが直に手に伝わる。


我慢できず、その頰にそっとキスを落とした。


< 28 / 36 >

この作品をシェア

pagetop