モナムール
「……どうしたらいいんだろう」
「何がですか?」
「私、結婚できるのかな」
「結婚願望強いんですか?」
「まぁ、人並みには」
早い子は二十歳前で結婚している友達もいて。
そういう子はもう子育てが一旦落ち着き出して悠々自適に専業主婦をしていたり、さらなる高みを目指して仕事に復帰してキャリアを積んでいたりする。
他の子もSNSを見ていると婚約報告や結婚報告があとをたたない。
彼氏と旅行に行ったとか、合コンで良さそうな人に出会えたとか。
見たくない話題ばかりが目についてしまい、次第に投稿するようなことが何も無い自分が恥ずかしくさえ思うようになってきた。
「周りの友達を見てると、私はなんで一人なんだろうって……思っちゃって」
行動に移さなかったから。それに尽きるのは自分でもわかっている。
相槌を打ってくれるマスターの優しさに甘えて愚痴をこぼしながら、カウンターに突っ伏すように腕に顔を乗せた。
「わかりますよ。私も最近周りが結婚し始めて、相手もいない自分にそわそわしちゃったりしてます」
「……マスターも?」
「はい。私の場合は仕事もこれですし、普通にサラリーマンしてる人とは生活サイクルも違うので、尚のこと不安になりますよ」
「そっか……そうだよね……」
ここ、dernierのマスターはバーテンダーにしては若く感じる二十四歳。
ピシッとワックスで固められているであろう黒髪と、キリッとした目元がとてもかっこいい人。
年下とは思えない色気を纏っていて、マスター目当てに来る女性客も多いらしい。
何故マスターの年齢なんて知っているんだと聞かれれば、ここに通い始めた頃の私が酔った勢いで質問攻めしたからだ。
名前も聞いたはずなんだけど、それは忘れてしまった。確か珍しい名前だったような気もする。
むしろこの色気で歳下だということに驚いて、その年齢だけ頭に残っているのだ。