モナムール
「でもマスターはかっこいいから、すぐ彼女できそうだけど」
「そんなことないですよ。好かれたい人には微塵も振り向いてもらえない、可哀想な男なんで」
「えぇー……マスターかっこいいのに。マスターを選ばないなんて、すごいもったいないことしてるね、その人」
「そうですかね」
その流し目と色気たっぷりの微笑みで今まで何人の女性を虜にしてきたのか、計り知れない。
私も鷲尾さんのことが無ければ、マスターの虜だったかもしれない、なんて。
すでにその人柄とお店の雰囲気が気に入って通っているのだから似たようなもの。
でもそんなマスターにも靡かない女性がいるなんて。びっくりだ。
「うん。……あぁ、でもマスターに彼女ができちゃったら私、困るかも」
「……え?」
私の呟きにグラスを拭く手を止めたマスターは、目を見開いてこちらを見つめた。
あまり見られないその顔が可愛くて、だらしなく口角が緩む。
「だって、彼女ができたらこうやって愚痴聞いてもらえなくなっちゃうかもしれないし。それに私、マスターが作ってくれるお酒大好きだから」
ふふ、と笑うとマスターは目を細める。
もし彼女ができたり結婚して、お店辞めるなんて言われたら困る。
キープしてあるボトルが無くなるまでは、マスターにはここでお酒を作ってもらわないと。なんて、自分勝手にも程があるけれど。