モナムール
「……中野さんは、どんな男性がタイプなんですか?」
「タイプかぁ……うーん、優しくて、頼り甲斐があって、包容力がある人がいいなあ」
鷲尾さんがそんな人だったなあ、と思いながら答えると、マスターは穏やかな声で質問を重ねてくる。
「歳は?上?下?どっちもいけます?」
「うん、そこにはこだわり無いよ。成人してれば下もあり。さすがに十近く離れてたら身構えちゃうけど」
「それは言えてますね。十歳離れるとジェネレーションギャップ凄そうですし」
「そうそう、仕事で関わるのはいいけど日常会話が上手く噛み合わないから成立しなかったりね」
笑っていると、不意に私の目の前に一杯のカクテルが置かれた。
「……え?」
「私からのサービスです」
「……急にどうしたの。いいの?」
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
いつのまに作ったのだろう。
ロングのグラスに入った、ウイスキーより少し薄めな琥珀色。
そこから漂う甘い香りに、自然と手が伸びる。
「これ、なんて名前のカクテル?」
「アプリコットフィズです」
「アプリコット!だから甘い香りがするんだね」
「はい。でもレモンも入ってるので味はさっぱりしてると思いますよ」
「へぇ……ん、ほんとだ。美味しい」
このバーには数年通っているけれど、マスターからのサービスなんて初めてだ。
それにいつもウイスキーを飲んでいるから、こんな女性らしいカクテルも久しぶりに飲む。
きっと失恋した私を慰めてくれているのだろう。
「美味しい。ありがとマスター」
「……いえ、喜んでいただけて何よりです」
私に向けられたその笑顔が、どこか今までとは違うように見えて。
ゆっくりと一つ、息を飲み込んだ。