こいろり!
「何かあるなら別の日でも全然いーぜ?」
「何も無いわ!その日がいいの!!約束の指切りしましょう?」
窓から華花が手を出して、小指だけちょこんと立てる。
指切りなんて子供みたいな儀式、いつぶりだよ。
小さな溜め息を吐いて、仕方なく華花の小指に俺の小指を絡ませた。
「指切りげんまん、嘘ついたら……針千本」
「飲めねーよ」
「そうねぇ。じゃぁ、バンコクまでケーキを届けてちょうだい?」
なんて、華花が妙に真面目な顔をして言うから、思わず吹き出してしまう。
「ふはっ、なんだよそれ!普通に怖えーよ!」
「なによー、もう。ど、土曜日のこと、後で連絡するわ」
「じゃー、待ってる」
子供みたいな俺と華花のやり取りを、運転席にいる周が怪訝な表情で見つめる。
「あのー、泰良さま」
「あぁ?なんだよ」
「気のせいであって欲しいんですが、以前よりお嬢様に対して接し方が優しくないですか?」
「周、もう出発してちょうだい!泰良、またね!」
「あ、あぁ……」
「周、泰良が私に優しいのは──、」
周の車が動き出して窓が閉まるその瞬間、耳に入った華花の台詞。
それは、小さくて低い声のトーンでやけに落ち着いた声色だった。