こいろり!
「この箱、田渕さんに?」
「あぁ?」
女が俺の持つ白い箱に視線を向けた。
華花が持って行きたいというから、ケーキをテキトーに詰めてきたのだけど。もちろん、華花の持ってたブラックカードを使って。
つーか、ばあさんが華花のこと覚えてねーかも知れないなら早く教えろってんだよ。
ちっ。と、舌打ちをして目の前の女を睨み付けた。
「田渕さーん」
「あら、細谷さん。どうしたの?」
どうやら、この女の職員は細谷さんという名前らしい。手を上げて、華花とばあさんの方へ歩き出すから、仕方なく俺も一緒に近付いた。
「これ、このお菓子。この男の子が田渕さんにだって」
「まぁ、美味しそうね。あ、丁度良かったわ。華花ちゃん、1人じゃ食べきれないから、良かったら一緒に食べない?」
品のある口調。温かみのある穏やかな表情。
きっと、ボケる前も優しいばあさんだったのかもしれない。
「……………わぁ、美味しそうなケーキね」
華花の声が震えるのが分かった。
でも、華花は笑った。両手を合わせてニコリとばあさんに笑顔を見せたんだ。
「おばあさま、美味しいわ。とても、美味しい。ありがとう……」
「ふふ、良かったわ。華花ちゃんまた遊びに来てちょうだい」
──きっと、このばあさんは、次に来た時にまた同じ事を言うんだろうな。