こいろり!



「ちょっ……、苦しーんですけど」

「泰良はずるいから、いいのよ!」

「あぁん?一体、なにが……んぐっ、おい、」


華花が今度は俺の顔に体重をかけてくるから、一気に息苦しくなった。
つーか、どうなってるんだ?どこ押し付けてんだよ。



「私の気持ちなんて、本当は分かってるのでしょう?」

「や、やめろって、どけよ」

「私は子供だもの。どうせバンコクに連れてかれてしまうのよ!」

「……おい、マジで苦しいって、」


華花の体を押し退けて、やっと息が出来た。
ったく。この小さな体のどこにそんな力があったのか。





「ママに……、た、楽しい思い出を作ってあげてって、頼まれたんでしょう?」


と口にする華花の目には、大粒の涙が浮かんでいた。

なんだ、こいつ分かってたのかよ。
自分がこれからどうなるかってこと。
ただ、能天気に俺とデートしに来たわけじゃなかったのか。



「そーだよ。あの美魔女に頼まれた」

「び、美魔女ってなぁに?ママのことかしら?」


"ふふっ"と華花が眉を下げて震えるように笑うから、その反動で大きな瞳から水滴が零れる。

ポロポロと壊れた機械のように、俺の顔に涙が落ちてきて、頬を伝っては華花のワンピースを濡らしていく。


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