夢幻の飛鳥~いにしえの記憶~
比羅夫(ひらぶ)殿はあなたのことを、とても自慢げに話されてましたよ。よっぽどあなたのことが可愛いのでしょうね。
でも私に手は出さぬよう、しっかりと釘は打たれましたけどね」

それを隣で聞いた厩戸皇子(うまやどのみこ)も、とても愉快そうにしていった。

「本当に比羅夫らしいな。確かに自身が稚沙を小墾田宮の女官に推薦した手前、彼女に変な虫をつかせたくないのだろう」

厩戸皇子も額田部比羅夫(ぬかたべのひらぶ)の気持ちをくみ取ってそう答えた。

だがそれを聞いた稚沙(ちさ)は、とても複雑な気持ちになる。

(やっぱり、厩戸皇子は私に対して特別な感情は持ってないのね……)

「確かに叔父様なら、私に変な男性が近付いてきたと知ったら、血相を変えて相手の人の所に怒鳴りにいきそうですね」

稚沙は悲しみは感じたものの、それを厩戸皇子達の前で出してはいけないと思い、何とか平然を装った。

だがそんな稚沙を見ていた小野妹子(おののいもこ)は、一瞬彼女が見せた、悲しげな表情を見逃さなかった。

といえは、それを今は問い詰めるべきではないと思ったのだろう。そこには触れずにして、彼は続けて話をした。

「まぁ、そのことがあったので、あなたには1度会ってみたいと思っておりました」

小野妹子はとても優しい表情をして、稚沙にそう話した。

(この小野妹子って人は、すごく優しい人に見える……)

稚沙はそんな彼を見て、不思議にとても好感が持てる感じがした。

「はい、私も妹子殿のような方とお会い出来て、とても光栄に思います」

その後稚沙は、少しだけ彼らと話をしたのち、再び仕事へと戻っていった。


そしてその後も、忙しく働いているなかで、彼女はある思いを巡らせはじめていた。

(やはり、私もそろそろ覚悟を決めないといけないのかも……)
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