どうにもこうにも~恋人編~
「私と別れて以来、恋愛しようとしなかった彼に恋人ができたって聞いたから、その恋人とお話してみたかったのよ。あの人が惚れるわけだわ。石原さんって、素直で真っすぐで無垢なんだもの。おまけにお人好し。私とは全然違うわ」

「篠原さんも、素敵な女性だと思いましたよ」

「おべっかはやめてよ。私なんて意地の悪い女よ。コーヒー、私に奢らせてね」

 喫茶店を出て、別れ際に少しだけ話をした。

「ごちそうさまでした」

「いいえ。啓之と幸せにね」

「はい。篠原さんにも、また素敵な出会いがありますように」

「ありがとう。優しいのね。きっともう会うことはないだろうけど、私は石原さんと会えて良かったわ」

「私もです。あ、西島さんに返すもの、預かっておきましょうか?」

「いいわ。直接会って返したいの。それで彼と会うのも最後にするわ。じゃあね」

 彼女は小さく手を振り、コツコツと響くヒールの音とともに暗闇に消えていった。

 強いが脆い人だと思った。強いように見えて、それはただの虚勢なのかもしれない。きっとひとりでも生きていく強さをもっているが、一度触れたら簡単に壊れてしまいそうな脆さがある。西島さんのことを、心のよりどころにしていたのだろう。しかし、彼女の後ろ姿からも、彼女は西島さんと完全な決別をするつもりなのだと分かった。
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