どうにもこうにも~恋人編~
「彼氏でしょ?しかも結構年上なんじゃない?」

「え?なんで分かるの?」

「この前、友達と遊ぶって出ていったとき、家の前に車が停まったのが見えたのよね。結構いい車だったし、大学生じゃなさそうだなあと思って。しかも最近バイトでもないのに夜遅くに帰ってくることも増えたしね」

「お母さんには隠し事はできないね」

「ねえ、どんな人なの?」

 母はエプロンで手を拭いて私の方に向き直った。

「普通の会社員だよ。とっても優しくていい人」

「慧がそんな顔するの初めて見たわ。恋してるのねぇ」

「えっ、そんな顔って」

 私は慌てて両手のひらで頬をごしごしとこすった。

「ちゃんと避妊はしなさいよ」

 母はポンっと私の肩を叩いた。

「お母さん!」

「あ、洗濯物干さなきゃ」

 母は忙しなくスリッパをパタパタ言わせて脱衣所に行ってしまった。



 その日の夜は夕食を家族で食べた。普段はバイトだったり西島さんの家に行っていたりしているから久しぶりの家族団欒だ。そんな中で寡黙な父がいきなり私に話を振った。

「男ができたのか」

 私の箸につまんでいた肉じゃがの人参がぽろりとテーブルに落ちた。

「お父さん、単刀直入すぎ」

 父のおかわりのご飯をよそいながら母が言った。父は母からご飯茶碗を受け取りさらに言葉を続けた。

「年上の男らしいじゃないか。いくつなんだ」

「42歳」

 父は飲んでいたみそ汁をむせて拭きこぼした。
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