どうにもこうにも~恋人編~
 母はお茶とお菓子を出してくれた。

「改めまして、慧さんとお付き合いさせていただいている西島啓之といいます。本日はお時間をおつくりいただきましてありがとうございます」

 西島さんは深々と頭を下げた。

「こちら、手ぶらでは何なので菓子折りをお持ちしました。お口に合いますと嬉しいのですが」

 西島さんはそっと紙袋を差し出した。

「あら、お気遣いいただいてありがとうございます。あまり堅苦しくしないで、ゆっくりしてってくださいね」

 母は紙袋を受け取った。

「ところで、西島さん、普段は何されてる方?」

「商社に勤めています」

 会社名を言うと、両親は驚いた顔をしていた。

「聞いたことあるわね。有名なところじゃない?」

「役職は?」と父。

「経営企画部長をしています」

「有名商社で部長職か…」

 父は苦い顔をした。なぜなら中堅企業の課長職だから、内心負けたと思っているのだろう。父がどんな仕事をしていても、家族が困らず生活していけているから別によいのだけど。

「ふたりはどうやって出会ったの?」

「私のバイト先の常連さんだったの」

「はい。元気のいいバイトの子がいるなあと思っていたんです。それが慧さんでした。元気だし気が利くし、愛嬌もいいですから、常連さんたちからは『ケイちゃん』と呼ばれて親しまれていますよ。慧さん目当てで来る常連も少なくありません」

 急に褒められてなんだかこそばゆい感じ。
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