どうにもこうにも~恋人編~
「ちゃんとバイトしてるのね。社会人になっても安心ね。じゃあ、もしかして西島さんも慧が目当てで?」

「まあ、そう言っても差し支えないですね。慧さんの底抜けに明るい笑顔にはいつも癒されていました。ただの常連のときは、慧さんとこういった関係になるとは思っていませんでしたが、いつも慧さんには元気をもらっています。ご家庭でもきっと慧さんは明るいんでしょうね」

「明るいどころかうるさいくらいよ。最近は夜いないことが増えたから静かだけどね」

「ああ、すみません…」

 母の言わんとしていることが分かって西島さんは苦笑した。

「しかし、年が離れすぎてはいないか。なんでその年まで独身で?」

 父はずけずけと不躾な質問をする。西島さんは顔色ひとつ変えずそれに答えた。

「私は、恋愛に億劫になっていたんです。もう人を愛せないとさえ思いました。けれど、真っすぐに思いをぶつけてくる慧さんに気持ちを揺り動かされました」

 私が西島さんにした数々のアプローチを思い出して顔が熱くなっていく。

「たしかに、20歳という年の差は大きいかもしれません。私もそう思います。それこそ、私よりこれからの人生の方が長い慧さんと付き合うべきではないと思っていました。慧さんの将来を私が奪ってしまうなんておこがましいと。しかし、自分の気持ちには抗えませんでした。私自身の手で慧さんを幸せにしたいと思ったんです」

 そんなふうに思ってくれていたなんて…。彼の一言一言が私の胸に刺さる。

しかし父はそんな言葉も意に介さない。
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