先生、大嫌いです。ーあるふたりの往復書簡ー
プロローグ【先生なんか大嫌い。】
3月6日

秋場孝行様
明日の卒業式で、もう学校に行かないと思うといてもたってもいられなくなってしまいました。
秋場先生も離任されると聞き、最後に手紙を書くことにしました。

副担任として、数学の教科委員としても2年間お世話になりました。
態度が悪かったので、たぶん先生は気分を害されていたと思います。ごめんなさい。
先生なんか大嫌い。
そう自分に言い聞かせていました。
そうしていないと、自分の気持ちに押し潰されそうになるから。
でも、嫌おうとすればするほど、結局気持ちを無かったことにできずに、自分の馬鹿さ加減を思い知りました。

好きです。
こんなことを言ってもきっと信じてもらえないですよね。
でも、真っ直ぐ目を見て話す先生が、どんなことを言っても馬鹿にしないで聞いてくれる先生が、ちょっと忘れっぽくて、時々「悪いな」って笑いながら私に何かを頼んでくる先生が、好きでした。
私の見ていた先生が本当の姿かなんてわからないけど、決して美化しているだけではないです。どんな風に出会っても、好きになっていたと思います。

授業中は楽しそうに数学のことを話して、テストの採点は厳しかったけど、こちらが真剣に言えばちゃんと話を聞いてくれて。
本当に素敵な先生だと、誰よりも尊敬しています。
好きで好きで、でもそれを知られるのが怖かった。
先生に「ごめんな」って言われるのも怖かった。生徒でいる限り、それ以外の答えがないとわかっていたから。
ずっと、先生に告白する子をズルいと思っていました。答えのわかってる告白なんて、身勝手なものだと。
嫌な役を先生にやらせて、なのに傷つけられたと泣く子たちを卑怯だと思っていました。
本当に卑怯なのは、散々避けて答えすら聞かずに言い逃げする私ですね。
すみません。

それでも、本当に好きでした。
これでやっと、この想いを終えることができそうです。
それだけを伝えたかったのに、こんなに長くなってしまいました。
読んでくれて、ありがとうございました。

先生の母校で学べることを4月からの励みにします。
お身体に気を付けて。さようなら。

3年A組 志摩野 英里




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