儚く甘い
「大切だから、感謝してるから、彼女は生きようって思えてるんだと思います。こんな病気になってたら、俺だったらとっくに悲観してぐれて、手のつけようもないくらいひん曲がった正確になってたはずです。」
達哉はみわの方を見つめたまま隆文に話す。
「お兄さんやお母さんがまっすぐに彼女を守って、支えて、愛情も想いも全力で注いできたからこそ、彼女はこんなに純粋でまっすぐで、ひたむきに生きてくることができた。彼女の笑顔を見るたびに、俺、救われるような気がするんです。一点の曇りもない、偽りもない笑顔に。その笑顔を守ってきたのはほかの誰でもない、お兄さんたちとお母さんの力ですよね。」
隆文はまだまだ自分よりも幼い達哉の言葉に、心がギュッとつかまれる。
「正直怖いです。彼女を失うんじゃないかって。」
「・・・」
「でも何もやらないで彼女を失ったら、誰よりも、彼女が悔しいじゃないですか?」
ずっと一緒にいた自分たちよりも、妹を理解している達哉に、隆文はみわを見つめて思わず微笑む。
妹の幸せは、達哉の手の中にあると確信した瞬間だった。
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