儚く甘い
達哉は自分でも驚くほど俊敏に、離れていくみわの手をつかんでいた。

「?」
咄嗟につかまれた自分の手と、達哉を交互に見るみわ。
「なんで笑う?」
「え?」
「どうして無理して笑う?」
「無理なんて」
みわはいつものようにごまかそうとした。

本当の自分の気持ちは言わない。
悟られないようにと必死に繕って来た。

のど元まで出かかる言葉をすべて飲み込んできた。
本当に言いたいことなど、もう何年も口から発することはなく、飲み込んできた。

苦しくてのどが詰まっても、無理やり飲み込んできた。
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