儚く甘い
でも、まっすぐ向けられる達哉の視線に、何を言ってもこの人には気づかれてしまうと、直感でわかる。

「これが私だから。」
みわの答えに達哉は一瞬何かを考えてから、手を離した。

急に自由になった自分の手を見るみわ。
なぜか、寂しいような、物足りないような、何かを失ったかのような、不思議な気持ちになる。

「ほんとのお前はどこにいるんだよ」
不意に吐き出された達哉の言葉にみわは自分の手を見つめたまま動けなくなる。

達哉はみわにかまわず、再び屋上から見える景色の方に体を向けて、煙草を吸い始める。
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