Spring has come...
高校3年生、3月。

卒業式が終わり、受験受験と騒がれた月日も過ぎて、それぞれが新しい道へと進んでいく。

わたしの合格発表も昨日あり、担任の先生に合格の報告に学校へきた。合格したのは私だけでなく、他の子もいたようで何人かで教室で写真をとることにした。

「もう制服着ることなくなるんだねー!」
「ね!最初リボンとかさーやだなとおもってたの!でもさ、いざもう着なくなるって思うと嫌だなって思う!」
「わかるー!JKブランド無くなっちゃう!」
「あっその前にさ、遊園地行っておかない?制服で!」

口々にそれぞれの思いを語る。
もう友達グループなんてものはなくて、それぞれが会話に入ったり入らなかったり、写真を撮っている子もいれば名残惜しそうに自分の座っていた席を見つめている子もいる。
私は。
私はある一点だけを見つめていた。

「華恋」

ふいに名前を呼ばれる。
親友の玲奈だ。

「華恋…その、流星くんに言ったの?」

その質問に何も答えられなかった。
【言ったの?】
もちろん。あれしかない。

流星くんの机を見つめる。
いや、流星くんなんて呼べるほど仲良くはなかった。ただ、本当にただ一回話しただけの男の子。
朝倉流星くん。


4月。
クラス写真をとるからと、満開の桜の下に全員で行った。クラス替えもあり、全員が緊張していたような気がする。私もその1人だった。
その時

「桜ついちゃってるよ」

笑いながら私の髪についた桜をはらってくれた。
それが流星くんだった。

「ついててもいいと思うけど、集合写真だと恥ずかしいよね」

この人は心を読めるのか、確かに1人だけ桜の花びらがついていたら恥ずかしい。それを屈託のない笑顔で触り、払ってくれた。
本当にそれだけのことだった。

だけど。
恋に落ちるには十分だった。


流星くんは分け隔てなく誰にでも優しく接する人だった。人気ももちろんあり、何度も誰かに告白されているような人だったが、だれとも付き合うことはなかった。いつしかだれも告白しなくなった時、たまたま、夕暮れ時の教室で一緒になったことがあった。

「あれ?小坂、どうしたの?」
「あっ、えと忘れものしちゃって…数学の参考書」
「そうなんだ」
「朝倉くんは?」
「俺も忘れ物、しかもスマホでさ、危なかったよ」

また、その笑顔。
しかも夕焼けで綺麗な彼の茶色がかった髪が綺麗に反射して見える。端正な顔立ちのくせに、くしゃっと笑う笑顔は子供みたいだ。

「あの…」
「やっべ!俺もう電車乗り遅れそうだわ!ごめんな小坂、先帰るな!気をつけて」
「あっ、うん!朝倉くんも気をつけてね…」

最後まで彼に聞こえたかわからない。
私は今何を言おうとしたのだろうか。
頭より先に口が動いていた気がする。

「あっ…」

朝倉くんの電車は私と同じだった。
たった二駅。
それが私たちの距離。

ねえ朝倉くん知ってる?
車両が一緒になったことがあること。
実はね、目の前に座ってたんだよ。
遅れそうになった私が、走って朝倉くんを追い越して電車に飛び乗ったこと。
実はね、ちょっと緊張して転びそうだったんだ。

知らないよね。

だって、

私のただの片想いだから。

「華恋、本当に言わなくてよかったの?流星くん、今日合格発表だから来るかもよ?」

彼の志望校は聞いていた。
頭が良くて、受ける大学はわたしの大学よりずっと遠くなる。地元を離れる子は多いが、流星くんと離れることは決まっていた。

まだ、外の桜は芽吹いているだけ。

私の。

私の恋は。

「玲奈、もう、いいんだよ」
ニコッと玲奈に笑ってみせた。玲奈がそれ以上何か言うことはなかった。

帰り際、合格発表を確認した流星くんが先生と話しているのが見えた。先生があんなに喜んでいるという事は、合格したということなのだろう。

よかった…。

これで。

これできっと忘れられる。

君と離れる。

まだ咲かない桜。

私の芽生えた恋は、

咲くことはもうない。

【好き。大好きでした。】

言い忘れたことがある。
君に。
でも、もう言わない。
もう言うことはない。

【この恋をありがとう。】

私の恋は、

二度と咲くことはない。


4月。

君のいない春が来る。

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