a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜
2
朝になり、ホテルのカフェで朝食を済ませた那津は再び海に向かう。
昨夜は同室の人がいなかったため、気を遣わず落ち着いて寝ることが出来た。それに周吾と過ごしたことで気分転換が出来たのも事実だった。
彼の言葉は私を元気付けるためのもので、それ以上でもそれ以下でもないはず。あまりに落ち込みすぎていたから、海に飛び込むのを防ごうとしただけ。恋がそんな簡単に始まるとは思えないもの。
でもそういう意味では成功したのかもしれない。今は明後日の約束を楽しみにしている自分がいるから。
元カレのことを全く考えないわけではないけど、その時間が減ったことは確かだ。
歩道を歩きながら浜辺に目をやった那津は、背の高い黒っぽい影がこちらに向かって手を振っていることに気付く。
首を傾げながら砂浜に降り立つと、その影が徐々に近寄ってくる。
「那津さん、おはよう!」
「瀧本さん……? どうしてここにいるの?」
「いや、出勤前に那津さんに挨拶しようかと思って」
周吾はにっこり微笑むと、ポケットから小さな紙を取り出し那津に渡した。
『洋菓子店 Ri-Ma』
色とりどりの可愛らしいケーキの写真と、まるでヨーロッパのようなこじんまりとした店舗の写真が貼られている。
那津は驚いた。私この人に自分のことは何も話していない。それなのにまるで見透かされているようだった。
「去年移住してきた女性がオープンしたお店で、少し離れてるんだけどすごく評判がいいんだ。通販が主なんだけどね、アレルギーのある子も食べられるお菓子が揃ってるらしい。俺はまだ行ったことないんだけど、那津さん良かったらどうかなと思ってさ」
「へぇ……」
那津が興味を示すと、周吾は彼女の頭に手を載せてからニヤッと笑う。
「ちなみに俺、チョコレートが大好物なんだ」
「……それって買って来いってこと?」
「さぁ、那津さんにお任せするよ。じゃあそろそろ行かないと」
「あっ……行ってらっしゃい……」
自分で言いながら恥ずかしくなる。下を向いた那津を周吾がぎゅっと抱き締めたものだから、驚いて固まってしまう。
「なっ……!」
「パワーチャージ。行ってきます」
周吾は何もに手を振りながら走り去ってしまう。彼の背中を見送ると、急に寂しくなった。
一人になりたくてここに来たはずなのに、構われると嬉しいなんて……変な感じ。
昨夜は同室の人がいなかったため、気を遣わず落ち着いて寝ることが出来た。それに周吾と過ごしたことで気分転換が出来たのも事実だった。
彼の言葉は私を元気付けるためのもので、それ以上でもそれ以下でもないはず。あまりに落ち込みすぎていたから、海に飛び込むのを防ごうとしただけ。恋がそんな簡単に始まるとは思えないもの。
でもそういう意味では成功したのかもしれない。今は明後日の約束を楽しみにしている自分がいるから。
元カレのことを全く考えないわけではないけど、その時間が減ったことは確かだ。
歩道を歩きながら浜辺に目をやった那津は、背の高い黒っぽい影がこちらに向かって手を振っていることに気付く。
首を傾げながら砂浜に降り立つと、その影が徐々に近寄ってくる。
「那津さん、おはよう!」
「瀧本さん……? どうしてここにいるの?」
「いや、出勤前に那津さんに挨拶しようかと思って」
周吾はにっこり微笑むと、ポケットから小さな紙を取り出し那津に渡した。
『洋菓子店 Ri-Ma』
色とりどりの可愛らしいケーキの写真と、まるでヨーロッパのようなこじんまりとした店舗の写真が貼られている。
那津は驚いた。私この人に自分のことは何も話していない。それなのにまるで見透かされているようだった。
「去年移住してきた女性がオープンしたお店で、少し離れてるんだけどすごく評判がいいんだ。通販が主なんだけどね、アレルギーのある子も食べられるお菓子が揃ってるらしい。俺はまだ行ったことないんだけど、那津さん良かったらどうかなと思ってさ」
「へぇ……」
那津が興味を示すと、周吾は彼女の頭に手を載せてからニヤッと笑う。
「ちなみに俺、チョコレートが大好物なんだ」
「……それって買って来いってこと?」
「さぁ、那津さんにお任せするよ。じゃあそろそろ行かないと」
「あっ……行ってらっしゃい……」
自分で言いながら恥ずかしくなる。下を向いた那津を周吾がぎゅっと抱き締めたものだから、驚いて固まってしまう。
「なっ……!」
「パワーチャージ。行ってきます」
周吾は何もに手を振りながら走り去ってしまう。彼の背中を見送ると、急に寂しくなった。
一人になりたくてここに来たはずなのに、構われると嬉しいなんて……変な感じ。